磬子 Zoom in

磬子の彫物を拡大して見てみた。

BlueIndexStudio所蔵

美しい彫りで驚いた。彫刻刀は迷いもなく動いて、一気に彫られたことがわかる。

「屋」の3画目や5画目などの入筆部、「重」の4画目の折れに黒色部分が見える。これは下書き文字の墨の掘り残しだろう。

きちんとした書で、字間や文字の大きさもバランスよく取れているところから、筆耕者、またはそれに準ずる技術を持つ人が下書きをしたうえを彫ったと考える。

アメリカのアンティークサイトなどで見られる同サイズ程度の磬子には、このような整った彫りはほとんど見かけない。彫り師が下書きなしのフリーハンドで直彫したような、文字として美しいとは言えない仕上がりが多い。

このようにきちんと、丁寧に手順を踏んでいるにもかかわらず誤りに気づかなかったのは不思議だ。

完成して過ちに気づいたものの時間の余裕がなく修正されずに寄進されたと考えるのは、寄進という目的から推測すると、可能性が低いだろう。
新たな磬子を作り直して寄進しこの磬子は工房に残っていて、後年、明治の廃仏毀釈などで外に出る機会を得たのかもしれない。それで破壊されずに今日至っているならば、かなり運のいい磬子だ。