プッチーニ

トスカーナ・ルッカ出身の作曲家ジャコモ・プッチーニ(Giacomo Puccini)。

プッチーニと聞いてピンとこない方も、“あ〜る晴れた〜日〜”という『マダム・バタフライ(蝶々夫人)』のアリアなら聴いたことがあるかもしれない。プッチーニは、1800年代初めのロッシーニ作『セヴィリャの理髪師』から約110年に及ぶ、イタリアオペラ黄金時代の終盤を飾る作曲家なのだ。

昨夜、プッチーニの半生をドラマ化した番組をみた。イタリア国営放送(Rai)制作ということでかなり期待。わずか2話だが、大雑把にまとめながらも史実に忠実に、そして愛情表現は細やかに描く、というところが想像通りでイタリア的だった。

プッチーニの最も知られている作品といえば『ラ・ボエーム』『トスカ』『マダム・バタフライ』。それぞれの主人公はすべて女性だ。深い愛情をいだきながらも自らの力ではどうにもならない状況に追い込まれる運命で死んでいく悲劇だ。そして彼らは高貴な身分ではなく一様に“清く貧しく美しく”生きる娘たちだった。

ドラマの中でプッチーニは、出会う女性すべてに恋をする。場末の盛り場で小遣い稼ぎのピアノ弾きをすれば踊り子といい仲になり、声楽教師に行けば教え子となった実業家夫人と駆け落ちする(妻となるエルヴィーラ)。かなりの遊び人というよりほかない。そんな彼の行動から、後には、プッチーニ家に仕えていた若い女中が、プッチーニ夫人からあらぬ疑いをかけられて自殺に追いやられるというスキャンダルまで起きる始末。しかし実際は、父親を早くに亡くしたため母親と5人の姉妹に弟が一人という女性優位の家庭環境で育ったことによる女性に対する親和性の高さが影響したという見方もあり、決して無分別に女性を軽く見て関係を繰り返したのではないというのが専門家の見解だが、どうだろう。

そんなプッチーニだからなのか、彼の行動範囲はとても庶民的。巷で出会う人々は彼のインスピレーションの源。プッチーニ作品にはこうした普通の人々が情緒豊かな旋律として描かれている。

市井の日常生活を主題にして、情熱的で強い、時に暴力的な感情を表現する作品をヴェリスモ・オペラという。1900年代最後の10年間、イタリア・オペラで栄えました。プッチーニ作品の中では、劇中3人が死を迎え暴力的描写も鮮明な『トスカ』がその傾向が強いと言われている。

ちなみに、作品内容からヴェリズモ・オペラの傾向が見られる有名作品として、ビゼーの『カルメン』や、ヴェルディの『ラ・トラヴィアータ』があります。いずれもドラマチックで、人気の高いオペラだ。

プッチーニの人生最後の作品は『トゥーランドット』。未完の作だ。一見、王子と王女の物語でいつものプッチーニ作品とは異なる設定だが、ここでも「リュー」という心優しい召使いが重要な役目を果たしている。プッチーニの視線が市井の人々から離れなかったことがうかがえる。

実生活での女性関係は生身の人間同士問題はあったに違いないが、プッチーニの繊細で心のこもった振る舞いによって女性たちも心を開き、そこで深められた関係を創作の糧としてしっかり作品に投影しているところは、世に名だたる表現者、アーティストによく見られる習性と、鑑賞者には受け入れやすいのだが…。

参考:https://www.britannica.com/art/verismo-Italian-opera