ボストン美術館の浮世絵収蔵内訳

『ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 私の国貞』展のカタログにボストン美術館(MFA)の日本版画の絵師別収蔵数が掲載されている。今回はこのデータについてのお話。

まず「ボストン美術館に1000枚以上の作品が所蔵されている日本の版画の絵師」というタイトルの表が添付されている。

これまで私が記憶にあるのは2008年の『ボストン美術館浮世絵名品展 図録』のトンプソン氏の解説。かなり古い話ですが、その時点ではまだ登録は続けられており、ビゲロー・コレクションの浮世絵版画に関しても、「少なくとも30,000点になると確信する」という見通しを述べていた。これを踏まえて作品登録が完了したこの表を見ると、2011年に登録終了となったビゲロー・コレクションの版画総数33,264枚というデータは、当時のMFA担当者の確信に近い結果だ。

さて絵師別の数値。作品数の一番多いのは国貞の10,304枚。
ついで2番は広重5,776枚.、3番は国芳3,794枚、4番目初代豊国(国貞の師)1,563枚、5番目国周1,298枚、6番目北斎1,267枚…と続く。
国貞作品が他に比べてずば抜けて多いことがわかる。

つぎにこの表をコレクションごとに見ていこう。これは寄贈作品の多い2つのコレクションを比較している。
ビゲロー・コレクション*の1番は国貞9,088枚、2番目が国芳3,240枚、3番目が広重で1,736枚、4番目が国周1,192枚…。
一方でスポルディング・コレクション**の1番は広重2,383枚、2番目が春章452枚、3番目が北斎427枚…です。

ビゲロー・コレクションの総数は33,264枚で版画コレクション全体の63%を締めるといい、ビゲローの時代からすれば古い江戸時代の作品を、偏らず幅広く収集することに努めたようだ。
スポルディング・コレクションの総数は6,609枚で全体の12%で、とりわけ広重作品を好んで収集したようだ。そのおかげで絵師別作品数において広重が国芳を抜いて二番目に収蔵作品数の多い絵師となったことが指摘されている。さらにトンプソン氏は、スポルディング兄弟が入手した数少ない国貞と国芳の風景画について、19世紀の風景画収集は20世紀初めのアメリカのコレクターの典型的な嗜好であると指摘。影響を与えたのは1890年代フェノロサ***を代表とする“風景画により価値を置く見方”にスポルディング兄弟が影響を受けたことにも言及してる。いずれにしてもスポルディング・コレクションは門外不出。展示されることはない。

コレクターそれぞれのこだわりのおかげでMFAの所蔵は大変豊かなものになった。最終的には版画総数には現代作家による作品数も含まれているそうだが、それにしても膨大だ。とりわけビゲロー・コレクション。この数値を見ると2016-2017年の国芳国貞展の殆どがビゲロー・コレクションだということも納得だ。ビゲロー・コレクションも2000年までは美術館の規約により貸し出し禁止だったことを考えると規約が変更されて幸いだった。

2011年の作品登録終了から10年も経ったが、クニクニ展の日本版カタログが入手できたおかげでデータを知ることができた。

なおトンプソン氏はこの解説を「宝物の終の棲家を探すときにはMFAを思い出してほしい」という言葉で結んでいる。浮世絵版画の終の棲家としてMFA以上の場所はないと私も思う。この10年の間には新たな宝物が増えているに違いない。

セーラ・E・トンプソン(Sarah E. Thompson)
ボストン美術館 アジア オセアニア アフリカ美術部 日本美術課 キュレーター(Curator, Japanese Art Museum of Fine Arts, Boston)
注:日本語によるタイトルは参照文献による

*William Sturgis Bigelow Collection
**William S. and John T. Spaulding Collection
***Ernest Francesco Fenollosa: MFA日本部(のち東洋部)初代部長

<参照文献>
セーラ・E・トンプソン 2016「ボストン美術館の国芳と国貞」『ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 私の国貞』光村印刷 p.210-215