小万とは

作品上の情報から《桜屋の小万》を探る。

画面背景が階段とは舞台装置。そして何かを差し出すこのポーズもいかにも芝居がかっている。これは芝居絵・役者絵。

それでは画面情報から見てみよう。
作品名:桜屋の小万(さくらやのこまん)
版元:版元(亀甲の中にト+遠彦)遠州屋彦兵衛
落款:豊国画(年玉)
絵師:豊国三代/国貞
改印:申五改;1860(安政7/万延元)年 

BlueIndexStudio所蔵

改印の年代から豊国は3代目、初代国貞だ。

さて小万。
まず衣装から見てみると、袖や肩に千鳥の柄。裾には釻菊(かんぎく)の紋様も見える。この手がかりから浮上したのは歌舞伎俳優・澤村田之助。

釻菊は定紋で替紋が波に千鳥。よく見ると着物だけでなく硯箱にも千鳥が描かれている。澤村田之助は現在まで続く名跡だ。改印の時期から推測するに1858(安政5)年に襲名した三代目のもよう。

この役者が「桜屋の小万」として登場する公演を捜索。
すると『五大力色〆(ごだいりきいろのふうじめ)』という作品がヒット。この役者絵の出版年(1860)と同じ1860年の芝居番付が続々と出てきた。

興行地:江戸・守田座
上演日: 1860(万延元)年5月5日 (同年3月18日から万延元年)

これによって1860年5月5日興行の歌舞伎『五大力色〆』に合わせて出版された錦絵があることが裏付けられた。資料となった番付から、この興行で桜屋の小万を演じたのは三代目澤村田之助ということも裏付けがとれた。
今回は作品の詳細を理解するための資料が揃っていてかなり楽なケース。

ところがこの作品と同じ錦絵は(少なくともオンライン上では)未だ見つかっていない。

<参考文献>
浅野秀剛 2012「浮世絵は語る」講談社
石井研堂 1920「錦絵の改印の考証:一名・錦絵の発行年代推定法」伊勢辰商店
早稲田大学文化資源データベース「五大力色〆」
https://bit.ly/2Pf9cUm



桜屋の小万

豊国画『桜屋の小万』BlueIndexStudio所蔵

隣町のはじめて行った骨董屋で見つけた比較的状態のよい錦絵。これまた縁もゆかりもないような額に囲まれて、作品入りながら額の売り場に置かれていた。実際私も古い額を探しながらそこにたどり着いたわけだから不思議な縁だ。

その場で作品だけを取り出してみることはできなかったが、目立った欠損やカビもなく状態良好。額装はマットや木製額の様式からも現代の画廊などによるプロの額装だった。現在の額装の前も額装されていたなど、丁寧に保管されながら日本を離れたのではないかと想像している。

額を売る目的の値段設定で、作品の価値は加えられてないのが逆に寂しい気がしたが、どの道大事にする手に渡ったこの作品は強運を持っている。