紙の本のジレンマ

数年ぶりの紙の本。

近所にちいさなちいさな本屋さん、開店当時から気に入っている。というのもショーウィンドウの書籍紹介や店内の本に添えられたキャプションに本好きオーナーの情熱が溢れているから。

ある日、一冊の本が目にとまった。タイトルは『The Narrowboat Summer』。イギリスの産業革命の頃、イングランドとウェールズで狭い運河の貨物輸送用に使われた極端に幅のせまい、ひょろ長い船のことをナローボートという。

こちら、のどかな田舎の運河にすすむ青いナローボートが描かれた表紙。

紙にたまる水彩絵の具の濃淡も瑞々しくて、つい、手にとって読んでみたくなる。

既に話しているが英語語彙貧困な私は、英語本を読むには電子書籍に内臓されている辞書が必須となる。しかし今回は表紙に惹かれて紙の本を購入してしまった。

読み始めてから、かれこれふた月。読み終わったのは1/4程度。日常の中の話なので会話も多く比較的読みやすいにもかかわらず、通常に比べるとかなりの遅読。実はこれは辞書機能がないという理由ではなく、むしろ紙の本の特性のせい。つまり、紙の本を読むには明かりが必要。そのことが視力に問題がある私にとって、読書の機会を大幅に減少させている。ああっ、紙の本。思いがけないジレンマ!

デバイスの明かりは視力を衰えさせるが、慣れてしまうととても便利。でも明かりの強さに気をつけたり長時間にならないように意識しないと視力はすぐに衰える。これは残念ながら経験済み。この点も、紙媒体かデジタルか一長一短で悩みどころだ。

しかしながら紙の本は、眼にやさしいうえにページを捲るかすかな音や紙の触感、終わりに近づくと少しづつ慎重に読み進めるなど楽しみが多い。そして、本の内容が一層深く心に刻まれる気がするのは私だけだろうか。