摂津の玉川いろいろ

摂津の玉川は六玉川シリーズの一つとして長年にわたって人気のある画題。

ところで、詩歌に歌枕がつかわれるように浮世絵風景画にも土地ごとに決められた風物がある。その土地特産の植物や景色(ランドマーク)、古くから和歌に詠まれた枕詞などを継承して使われていたようだ。江戸の人々は草双紙や口コミなどから情報を得てこうした浮世絵の風物を見ただけで名所を判別できたのだろう。

摂津の玉川の風物は「うのはな」と「砧打ち」。摂津の里がある大阪府高槻市のサイトによれば、「うのはな」の和名は「ウツギ」といい、「砧」は「打つ木(ウツギ)」なので「うのはな」とつながるとのこと。

浮世絵のテーマとしては「砧打ち」風景が取り上げられることが多いようだ。
今回はボストン美術館のアーカイブから「摂津国擣衣の玉川」をテーマにした作品を3作品。

1)鈴木春信作品

鈴木春信画 (1766-1767頃) 
六玉川 「壔衣の玉川 摂津の名所」
資料番号: 50.3601 Museum of Fine Arts, Boston 所蔵

親子だろうか、装いから年齢差がみられる女性二人が砧打ちをしている風景だ。ふっくらとした面差し。木槌を持たせるのは気の毒なほど華奢な手。若い娘の振り袖は帯の結び目に差し込まれて腕を動かしやすくしている。ゆったりとした着物と帯の線のながれからのぞくスッとした首筋、いかにも可憐だ。砧打ちをしていると言うよりも楽器を奏でているような、どこか浮世離れした優雅さと儚さが入り混じった空気。名所画風のタイトルですがやはり美人画におもえる。窓には源俊頼(ここでは相模)の和歌「松風の音だに秋はさびしきに衣うつなり玉川の里」が添えられている。

2)歌川広重作品

歌川広重画 (1835–1836頃) 諸国六玉川 摂津擣衣之玉川
資料番号: 21.9959
Museum of Fine Arts, Boston 所蔵

広重作品は名所絵。砧打ちが摂津擣衣の玉川の風物として描かれている。ここでも女性二人が向き合って(一人は幼子をおぶって?)砧打ちの作業をしている。満月に照らされて雁が渡り、初秋の北風にススキが靡くなかの砧打ち。田舎の素朴な日常が季節感ある詩情に富んだ風景として描かれている。そしてここでも俊頼の和歌が添えられている。
そして刷り上がったばかりのような瑞々しい色彩。それもそのはず、この作品はスポルディング・コレクションの1作。実際に鑑賞するのぞみが持てないのがとても残念だ。

3)喜多川歌麿作品

喜多川歌麿画 (1804頃) 風流六玉川 摂津
資料番号: 11.1969
Museum of Fine Arts, Boston 所蔵

この作品は6作品の続き物。こちらの砧うちは紅葉がハラハラと散る秋の風景だ。木槌ちを担ぐ女性に布を持つ女性、そして座っている女性が砧打ちをしている。背景の川は国芳の《六玉川 摂津国擣衣の玉川》と同様に続き物6作品にまたがって一筋の川が流れる手法。ただこの「風流六玉川」では、一筋の川が6箇所の玉川すべてを意味しているらしい。
国芳の砧打ちは牧歌的情緒を感じさせる風景ですが、こちらは市井の砧打ちの雰囲気を感じる。砧打ちの女性のしどけない姿など歌麿の女性たちの艶っぽさは江戸の香りをまとっている。 作品としては、美人大首絵で一斉を風靡した1790年代の絶頂期に比べると緻密さや品格が薄れて、むしろ退廃の空気が漂う。稀代の敏腕プロデューサー蔦屋重三郎ととも独自の表現を生み出した歌麿だったが、この作品年の頃蔦重はすでに亡く、執拗な出版規制の咎に力尽つきてきた時期かもしれない。

同じテーマを取りながらも三者三様の面白みだ。

<参考サイト>

歌川広重《諸国六玉川 摂津擣衣之玉川》 Museum of Fine Arts, Boston
https://bit.ly/3vCjDS7(4/29/2021閲覧)

喜多川歌麿《風流六玉川 摂津》Museum of Fine Arts, Boston 所蔵
https://bit.ly/3tcdomq(4/29/2021閲覧)

鈴木春信《六玉川 「壔衣の玉川 摂津の名所」》Museum of Fine Arts, Boston
https://bit.ly/3tbRQGm(4/29/2021閲覧)

高槻市 街にぎわい部 文化財課 2012「33.摂津の玉川」『高槻市インターネット歴史館』
https://bit.ly/3ewUXmQ(4/27/2021 閲覧)